2021年11月11日木曜日

百年前日記 21

  夏の終わりに、コロナ禍の中、せめてものレジャーとして家族で洞窟に行った。新見市なので、岡山県のまあまあ北部ということになる。井倉洞という洞窟である。その数日前にローカルのテレビ番組で紹介されているのを見て、洞窟なので内部はひんやり、という文句に誘われて行くことにしたのだが、ひんやりしているのは洞窟内だけなので、陽射しが照りつけてエアコンが追いつかない車中や、駐車場から洞窟までの行き来で、結局暑さにやられた。新見市に至る途中には高梁市があり、この日もまさにその最中にあったのだが、この二〇二〇年の八月に、高梁市は猛暑日連続の日本記録を更新したのだった。これは二十六年ぶりの更新だったそうで、けっこう貴重な歴史の一幕にわれわれ一家はかすったのかもしれないと、あとになって感じた。

(データを調べてみたところ、今ではその記録は歴代十九位タイです)

 そんなあまり冴えなかった八月を経て、いよいよ九月になった。なってしまった。方向性の定まらない、暑い、子どものうるさい日々には、心底うんざりだったが、じゃあ働きたくてしょうがないかといえば、もちろんそんなこともなくて、いったい自分はどんな状態が希望なのかと自問した。迷ってばかりだ。この九月に僕は三八歳になる予定で、不惑がどんどん近づいていた。アラフォーという言葉は、一時期世間で大きく取り沙汰され、嫌悪したり忌避したり秘匿したり受け入れたり、とかく当事者の心をかき乱したが、そんなライトな言葉よりも、不惑のほうがよほど心に重くのしかかると思う。四十歳になったらウロウロ迷ったらいけない、四十歳にもなってそんな状態なのは恥ずかしいことだ、というプレッシャーに対して、自分の現状はあまりにも頼りなかった。
 とにもかくにも初出勤だった。電車で通勤することを心に決めていたが、初日は荷物があったり、実際の一日の流れを見てから乗る電車を決めたほうがいいだろうという考えがあったりで、とりあえずは車で出勤した。遠かった。物理的に遠いし、岡山の中心地を通らなければならないので道が混んでいるしで、ずいぶん時間がかかった。やはり電車だな、と思った。