2021年3月15日月曜日

雑魚風邪

 いま、新型コロナウイルスに感染して治療をしている人がひとりもいないといわれている島根県で、ごく普通の風邪的なものを引いている。風邪というのもおこがましいと感じるような、ファルマンいわく「雑魚菌」で、高熱とか寒気とかそういうのは一切なく、ただ喉がイガイガしている。喉のその感じは、一般的な風邪の際、激しい格闘の末のエンディング的に現れるやつであり、ただそれだけが出てくるということは、菌があまりにも弱く、当人が知覚する間もなく体がやっつけてしまったということなのだろう。そんな、そもそも始まっていないようなストーリーならば、エンディングもなければいいと思うが、なぜかそこだけはやってきた。ネバーエンディングストーリーならぬ、ジャストエンディングストーリーだ。
 菌の感染ルートは、保健所に追跡してもらうまでもなく、子どもが学校でもらってきたといういつものパターンで、ポルガが先だったかピイガが先だったか、これはもはや定かではないのだけど、それからファルマンに渡り、そして最後に僕なのだった。家の外では常にマスクをし、そして殺菌への意識の高いこの環境において、感染ルートなんてもはやそれしかない。特にピイガの撒き散らしはすさまじく、このご時世にくしゃみをそんなにノーガードでぶっ放す人間があるかよ、というようなことを、4人でテーブルを囲む食卓でしたりするので、それをされてはもうひとたまりもない。ピイガのそのさまを見て、「思い切りくしゃみをする人」というのを久しく見ていないな、ということを思うと同時に、頭の中には富岳のCG映像が浮かんだ。ニュースなどで去年からたびたび目にする、マスクの効果などを検証するための、あの映像。あの赤とか黄色とか青の玉が、現実のピイガの口や鼻からも、たしかに出ているように見えた。もちろん錯覚なのだが、なんか本当に見えたような気がした。人類は新型コロナウイルス禍を経て、新しい能力を獲得したのかもしれない。ピイガがくしゃみをするたびに、僕とファルマンの間で「富岳だ」「富岳だ」といい合うのが流行っている。富岳って、きっとくしゃみでどんなふうに菌が拡散するか以外に、世の中のいろんな計算をしているんだろうと思うが、本当にそれしか印象がないため、そのうち「くしゃみ」という言葉は「富岳」に取って代わられるかもしれないと思う。