2020年10月5日月曜日

ワールドワイド

 今年は1月の終わりに、それまで勤めていた会社が6月いっぱいで閉じるということが告げられ、夏から転職活動をしなければならないという状況に置かれたため、その蛇の生殺しのような期間で、せっかくだからなんか資格を取ったらいいじゃないかと思い、インターネットで「有用な資格」ということで検索した結果、TOEICに狙いを定め、ひそかに勉強に励んだ。いま思えば、岡山在住で、いったいどんな職種への転職を目論んでいたのか、よく判らない。まあ他の、あまりにも職種を絞り込みすぎる資格よりも、TOEICならいろんな業態でなんだかんだで通用しそうな気もするので、決して間違いではなかったような気もする。ちなみに結果としては、新型コロナの影響によりTOEICの試験はこの半年ほどずっと中止で、先月あたりにやっと再開したようだが、それも人数制限と応募者殺到が相まって過酷な抽選、という有様で、そうこうしている間に僕は転職活動を終えてしまい、そもそもそのだいぶ前からTOEICの勉強はやめてしまっていて、とにかく僕とTOEICの間にはとことん御縁がなかった。
 TOEICの勉強そのものは、言語なので、嫌いではなかった。しかしあんまりにもビジネス英語すぎる、とも思った。日本語でもビジネス会話をしない人間が、どうして英語で外国人とビジネス会話をするというのか。いったい僕の身になにが起ったら、そんなことになるというのか。シチュエーションがあまりにも現実離れしていて、シュールでさえあると思った。どうしても英語を使わなければならない状況としては、ビジネスよりもはるかに、ボートピープルとしての立場のほうがリアリティがある。ボートピープルになった場合、どんな単語を知っておき、そしてどんな主張をしたらいいか、そういう試験のほうがよほど身が入っただろう。
 さらには、僕がどれだけ耳を澄ませて頭を働かせて、ヒアリング問題の音声を聴いたところで、ポルガのような、幼少期から本物の英語を聴いている世代にはどうしたって敵わない、というのも英語学習の挫折の要因だ。別にそこまで意識高く娘に英語教育を施したわけでもないが、それにしたって30年前とは世の中に蔓延する英語の質が違うようで、ポルガの英語の発音たるや、まるでネイティブのようである。どういう判定でそういっているかといえば、ネイティブの英語の発音も、ポルガの英語の発音も、同じくらい僕は聴き取れない。だからたぶんポルガの英語の発音は正しいんだろうと思う。こうなってくるともう、僕と御縁がなかったのは、TOEICではなく英語そのものだ、という気がしてくる。僕なんかが苦労して力ずくで英語の勉強なんかしなくても、ポルガの世代がするっと世界に羽ばたけばそれでいい、しかもこの世代と来たら、性差別とか人種差別とかにも偏見を持っていないと来ていて、ちゃんと世界で通用する素地ができている。現代教育すばらしいな、と思う。
 それに引き換え、としみじみと思う。まだそれなりに若いのに、世界では決して通用しない僕たちは、これからどうすればいいのか。ボートピープル英会話を速やかに学ぶ必要がある。